このページでは、森林(民有林)の区域を含む広範囲をカバーする1:5,000地形図である都道府県作成の森林基本図について解説します。
全国Q地図では、以下の府県の森林基本図を公開しています。
京都府、奈良県、和歌山県、佐賀県、熊本県、宮崎県、鹿児島県
↑ワンクリックで森林基本図を表示できます。↑
森林基本図とは
森林基本図についての説明を、「地図」という雑誌(日本地図学会の機関誌)に掲載された「『森林基本図』の概要」1という記事から引用します(1970年(昭和45年)の記事ですが、現在でも通用する説明です)。
森林基本図といえば,一般的には林業関係で森林を対象として作成する5千分の1縮尺の地図を意味している。しかし,後述するように,専門的には,林野庁が直接に管理・経営する国有林について作成するものは,単に「基本図」といっており,各都道府県が,林野庁の指導のもとに,行政の対象としての民有林について作成するものは,「森林基本図」といっているのである。
これを整理すると、以下のようになります。
正式名称 | 作成主体 | 対象 | 縮尺 | 本ページでの呼称 |
基本図 | 林野庁 | 国有林 | 1:5,000 | 林野庁の基本図 |
森林基本図 | 都道府県 | 民有林 | 1:5,000 | (都道府県の)森林基本図 |
このページでは、上記のうち、都道府県の森林基本図について解説します。
なお、林野庁の基本図は、2020年(令和2年)ごろから各森林管理局(林野庁の出先機関。旧営林局。)のウェブサイトで公開されています。
森林基本図の概要
ここからは、都道府県の森林基本図の概要を項目ごとに説明します。
縮尺
縮尺は1:5,000です。
作成機関
都道府県の林務部局(林務課、林業課、森林整備課など)が民間の測量会社に委託して作成しています。
整備範囲
どの都道府県も「民有林」の範囲は原則、カバーしていると思われますが、国有林の範囲や都市部まで整備しているかは都道府県によって異なります。
なお、「民有林」とは、国有林以外の森林を指します(森林法第2条)ので、都道府県有林や市町村林も民有林に含まれます。
作成年代
都道府県・地域により異なり、古い場合は昭和30年代後半、新しい場合は令和に入ってから作成されています。なお、作成年代が新しい場合(平成後半~令和)は、古い森林基本図を修正して、又は新たに作成し直したもののようです。
作成方法
以下の4パターンに分類できます。作成方法によって、記号や精度などが違ってきますので、森林基本図を利用するに当たって、その図がどのように作成されたのかに留意してください。
A 独自に空中写真測量を行って作成
都道府県の林務部局が空中写真測量を行って作成したもの。典型的な森林基本図の作成方法です。
B 林野庁の基本図を使用・複製して作成
都道府県の森林基本図は、主に民有林の区域を対象としたものですが、使用上の便宜を図るため、国有林の区域についても整備されている場合があります。この場合、林野庁の基本図を使用・複製して作成されています。
C 国土地理院の国土基本図、自治体の都市計画基図などを使用・複製して作成
国土地理院の国土基本図、自治体の都市計画基図などが整備されている地域の場合、これらの地形図を使用・複製して森林基本図を作成している場合があります。
D 各種測量成果を使用して作成
近年、整備される森林基本図の場合、航空レーザ測量成果を使用して等高線を描画し、国土地理院の基盤地図情報などを使用して建物などの地物を描画するなど、複数の測量成果を組み合わせて作成する場合があります。また、NTTインフラネット株式会社のGEOSPACEを森林基本図として使用する県もあるようです。
入手・閲覧方法
一般に森林基本図は、都道府県の林務部局に問合せを行って、申請書を提出すれば紙や電子データで入手することが可能ですが、手間がかかり、一般の方が気軽に入手することはできません。また、入手できたとしてもシームレスに閲覧したり他の地図と重ね合わせたりするには、GISソフトや専門的な知識が必要です。
そこで全国Q地図では、2020年(令和2年)から全国の都道府県を対象に、森林基本図を地図タイルに加工して、シームレスに閲覧できる状態で公開する取組みを進めています。
なお、近年は、ウェブサイトで森林基本図を公開している都道府県もありますが、1図郭ずつの公開であったり、シームレスに閲覧できる場合でも操作性や画質が劣る場合があります。
表2に、全国Q地図での公開状況と都道府県による公開情報を整理しています。
ここにリンクのない都道府県の場合は、各都道府県のウェブサイトの案内に従って申請を行って入手してください。
都道府県 | 全国Q地図での公開 | 自治体による公開 | 備考 | |
01 | 北海道 | |||
02 | 青森県 | |||
03 | 岩手県 | |||
04 | 宮城県 | |||
05 | 秋田県 | |||
06 | 山形県 | |||
07 | 福島県 | ふくしま森マップ | ||
08 | 茨城県 | |||
09 | 栃木県 | とちもりマップ | ||
10 | 群馬県 | マッピングぐんま | ||
11 | 埼玉県 | |||
12 | 千葉県 | |||
13 | 東京都 | |||
14 | 神奈川県 | |||
15 | 新潟県 | |||
16 | 富山県 | |||
17 | 石川県 | |||
18 | 福井県 | |||
19 | 山梨県 | |||
20 | 長野県 | G空間情報センター | ||
21 | 岐阜県 | |||
22 | 静岡県 | |||
23 | 愛知県 | |||
24 | 三重県 | |||
25 | 滋賀県 | |||
26 | 京都府 | ◯ | ||
27 | 大阪府 | |||
28 | 兵庫県 | |||
29 | 奈良県 | ◯ | ||
30 | 和歌山県 | ◯ | 森林基本図の公開について | |
31 | 鳥取県 | |||
32 | 島根県 | |||
33 | 岡山県 | |||
34 | 広島県 | |||
35 | 山口県 | やまぐち森林情報公開システム | ||
36 | 徳島県 | |||
37 | 香川県 | |||
38 | 愛媛県 | |||
39 | 高知県 | |||
40 | 福岡県 | |||
41 | 佐賀県 | ◯ | ||
42 | 長崎県 | |||
43 | 熊本県 | ◯ | ||
44 | 大分県 | G空間情報センター | ||
45 | 宮崎県 | ◯ | ||
46 | 鹿児島県 | ◯ | ||
47 | 沖縄県 |
根拠規定
各都道府県が整備している森林基本図ですが、その整備根拠となっている法令や林野庁の通知を調査しました。
まず、森林法において、都道府県は民有林を対象に地域森林計画をたてることとなっています。
森林法
(定義)
第二条
3 この法律において「国有林」とは、国が森林所有者である森林及び国有林野の管理経営に関する法律(昭和二十六年法律第二百四十六号)第十条第一号に規定する分収林である森林をいい、「民有林」とは、国有林以外の森林をいう。(地域森林計画)
第五条 都道府県知事は、全国森林計画に即して、森林計画区別に、その森林計画区に係る民有林(その自然的経済的社会的諸条件及びその周辺の地域における土地の利用の動向からみて、森林として利用することが相当でないと認められる民有林を除く。)につき、五年ごとに、その計画をたてる年の翌年四月一日以降十年を一期とする地域森林計画をたてなければならない。
そして、林野庁の通知(地方自治法の規定に基づく技術的助言)において、地域森林計画の樹立に当たっては「森林基本図」を作成することとされています。これが各都道府県で森林基本図を整備する根拠となっているようです。
地域森林計画及び国有林の地域別の森林計画に関する事務の取扱い
平成12年5月8日付け12林野計第154号農林水産事務次官依命通達第4 計画書等の作成
地域森林計画又は国有林の森林計画の樹立は、計画書、森林計画図その他必要な図面を作成してすること。(略)
地域森林計画及び国有林の地域別の森林計画に関する事務の取扱いの運用について
平成12年5月8日12林野計第188号林野庁長官通知 最終改正令和3年9月30日3林整計第296号第3 計画書等の作成
事務次官依命通知別紙の第4に示す計画書、森林計画図その他必要な図面の作成に当たっては、次に掲げる事項に留意すること。
(中略)
3 その他必要な図面
その他必要な図面は、森林基本図(国有林森林計画については、作成を要しない。)及び森林位置図とし、附録第5号により作成すること。この場合、森林位置図について、民有林、国有林の共通の図面として作成することが望ましいこと。○附録第5号 森林簿及びその他必要な図面の作成要領
別表3
2 その他必要な図面
その他必要な図面は、次により作成するものとする。
⑴森林基本図
森林基本図は、縮尺5,000分の1とし、空中写真の図化成果を用い、行政区界、林班界を記入して作成するものとする。○附録第6号 森林計画図の作成要領
森林計画図は、縮尺を5,000分1とし、空中写真の図化成果等を用い、広域流域界、行政区界、林班界を記入して作成した図面の写しに、次の事項を次表に示す記号を使用して作成するものとする。
※上記通知においては、森林基本図には行政区界、林班界を記入することとなっています。実際の森林基本図を見ると、市町村界などの行政区域は記入されていますが、林班界は記載されていません。通知と現状の不一致が生じた理由は現在のところ筆者には分かりません。なお、参考までに「森林計画図」に関する部分も一部抜粋しています。
森林基本図整備の歴史
森林基本図は、いつごろから整備されるようになったのでしょうか。
冒頭でも引用した「『森林基本図』の概要」に、都道府県の森林基本図整備の歴史が記されていますので、要点を以下に示します。
- 民有林を対象とした森林測量事業が発足したのは戦前だが、本格的に着手したのは戦後。
- 1947年(昭和22年)から米軍撮影の空中写真を用いて、図解法により地勢線(尾根線や谷線)を描示した1:5,000森林基本図が作成された。
- 1961年(昭和36年)から、全面的に等高線描示による森林基本図の作成に切り替わった。
実際の例で見てみましょう。
京都府
全国Q地図でも公開している京都府森林基本図については、作成年が京都府林業統計2に掲載されています。それによれば、森林基本図は(旧)市町村ごとに整備されており、作成年度が最も古いのは旧日吉町、旧八木町などで1962年(昭和37年)となっており、1961年(昭和36年)から等高線の森林基本図作成に切り替わったことと整合しています。
※京都府林業統計の古い年次のものが国立国会図書館のデジタルコレクションで閲覧できます。閲覧できるもののなかで最も古い47年版3によれば、やはり作成年度が最も古いのは日吉町、八木町などの1962年(昭和37年)です。その一方、令和4年版で1990年(平成2年)測量となっている京都市は1973年(昭和48年)、1984年(昭和59年)となっている宇治市は1969年(昭和44年)など、一部の地域で更新・修正が行われていることがわかります。
鹿児島県
もう一つ、鹿児島県の例を見てみます。全国Q地図でも公開している鹿児島県森林基本図の測量年月は、整飾に記載された内容を一覧表に整理4しています。それによれば、一番古いのが笠沙町などの1964年(昭和39年)で、こちらも「『森林基本図』の概要」に記載された内容と整合しています。
森林基本図の図式(記号)
森林基本図を正確に読み取るためには、図式(記号)を知っておく必要があります。
都道府県や作成年度によって図式は異なりますが、共通の部分も多いため、ここでは鹿児島県の森林基本図(林務部局が空中写真測量により作成したもの)を例に見ていきます。
地図の記号などは、通常、図郭外に示されています(整飾と言います)ので、その部分を確認してみましょう。
整飾には凡例欄が設けられています。また、「図式:林野庁指定図式」との記載があり、より詳細な情報を得るには、この図式を参照する必要があります。
「林野庁指定図式」を国立国会図書館デジタルコレクションで検索してみると、1962年(昭和37年)の林野庁長官から都道府県知事宛て通知の別冊「地域森林計画の編成等に関する規程の施行について」の「附録第3号 空中写真測量の作業要領(建設省、農林省 第5号 昭和37年6月16日承認済)」5に図式が定められていることが分かりました。
この作業要領の中から、主要な項目を表3に整理しました。
都道府県の森林基本図 | 通常の地形図 (市町村作成の地形図、国土地理院の国土基本図等) | |
図式 | 林野庁指定図式 | 公共測量標準図式、国土基本図図式 |
縮尺 | 1:5,000 | (以下、1:5,000の場合) |
範囲 | 南北3km✕東西5km | 南北3km✕東西4km |
紙の大きさ | 縦73cm✕横113cm | 縦78.8cm✕横109.1cm(四六判) |
図郭割り | 任意 (市町村ごとに作成する森林基本図の)図葉数が最低になるように定める | 通常は固定 (平面直角座標系原点を基準) |
精度(平面位置) | 主要点 平均1m 最大2m その他の点 平均2.5m 最大5m | (標準偏差) 3.50m以内 |
精度(標高) | 主要点 2m以内 その他の点 4m以内 | (標準偏差) 標高点 1.66m以内 等高線 2.5m以内 |
等高線間隔 | 主曲線 10m 計曲線 50m | 主曲線 5m 計曲線 25m |
国土地理院や市町村の1:5,000の地形図と比較すると、森林基本図は等高線間隔が10mで、精度の基準も緩いようです。
なお、林野庁指定図式を定める附録第3号は、昭和40年代前半までの間に廃止となっているようです6。その後は、おそらく林野庁指定図式をベースに各都道府県で定めた図式に基づき作成されているものと思われます。
森林基本図の記号(実例)
記号は、国土地理院の地形図や自治体の都市計画基図などと共通のものが多いですが、特に留意していただきたいのは以下の2点です。
森林などと畑地・水田・果樹園の境界を示す「耕地界」が実線
通常の地形図では植生界として点線で示されますが、森林基本図では実線で描かれます。太めの実線で描かれる道路(牛馬道)と間違わないようにしてください。
三角点の点名の注記が表示される
通常の地形図では注記のないない三角点の点名が、森林基本図では注記として記載されます。三角点の点名は、三角点の設置時に決められるもので、山の名前のほか、集落や谷の名前が採用される場合もあります。また、漢字表記が現在と異なる場合もあります。三角点の点名=山の名前とは限りませんので、注意してください。
森林基本図の活用例
森林基本図を活用できる場面として、以下の3つの場合に分けて説明します。
1 詳細な地形図として
2 古い地形図として
3 谷の名前をはじめとした地名の調査用として
詳細な地形図として
地理院地図で閲覧できる国土地理院の電子地形図よりも詳細な地形図として利用できます。ただし、測量年が古い場合には利用に注意が必要です。
- 地理院地図の電子地形図より詳細に現地の様子を知りたいときに
- 大学などでの各種調査に
都市計画基図が整備されていない山間部などでの現地調査用の地形図、論文に掲載する図の基図(背景図)として
古い地形図として
森林基本図は、測量年が古い場合も多いですが、これは逆に古くて詳細な地形図として、昔の様子を調べるのに役立ちます。
- 宅地造成前の地形の把握に
盛土の範囲、深さを調べることができます。ただし、等高線の精度が悪い場合もありますので、精度を確かめながら使用してください。 - 昔の公共施設などの把握に
空中写真でも昔の地域の様子を見ることができますが、地形図には記号や注記が示されているのが大きな違いです。今は廃校となった学校なども注記が表示されています。
谷の名前をはじめとした地名の調査として
都道府県が独自に測量して作成した森林基本図の特長として、谷の名称の注記があります。国土地理院の電子地形図にも一部、谷の名称の注記はありますが、国土基本図や都市計画基図にはほとんど谷の名称の注記はありませんので、森林基本図の特長と言えるものです(図7)。
ただし、谷の地名注記の有無は地域差が大きく、ほとんど記載されていない場合もあります。
また、谷以外にも、池、河川、小字の名称が注記されている場合があり、珍しい例としては海岸(砂浜?)の名前の注記がある図もあります(図8)。
- 蒲沼満「『森林基本図』の概要」『地図』8巻3号、日本地図学会、1970年、J-STAGE。 ↩︎
- 京都府農林水産部『京都府林業統計 令和4年版』、31頁、京都府ウェブサイト。 ↩︎
- 京都府農林部『京都府林業統計 昭和47年版』、1973年、24頁、 国立国会図書館デジタルコレクション 。 ↩︎
- 「Q地図タイルの説明(補足) 鹿児島県森林基本図」、
https://mapdata.qchizu.xyz/kagoshima_pref_f_00/info2.pdf。 ↩︎ - 林野庁『国有林野関係法規 : 1964.9.20~1965.11.30現在』第3巻 森林行政、林野共済会、1966年、国立国会図書館デジタルコレクション。 ↩︎
- 林野庁『国有林野関係通達集』森林行政・雑纂(1) 昭和40年12月15日現在、林野弘済会、1968年、国立国会図書館デジタルコレクション。 ↩︎